あなたはメタバースの原点ともいえるサービス、セカンドライフ(Second Life)をご存知でしょうか?
メタバースは2007年頃にも話題になり、企業もセカンドライフでビジネスを始めるほどのブームとなりました。
しかし、時間とともに参入した企業は離れていき、いまではセカンドライフがどうなっているのかを知る人も少なくなっています。
この記事では、セカンドライフの歴史や現状をお伝えするとともに、2021年現在のメタバースブームが以前とどう違うかを解説していきます。
メタバースのブームがこれからも続くのか、あるいはセカンドライフのように終わってしまうのか気になっているのであれば、ぜひ本記事を読んでみてください。
メタバースの概要
セカンドライフの話に入る前に、メタバースについて再確認しておきましょう。
メタバースは人によって定義が違う場合が多いため、意味を明確に決めるのは困難です。
そのうえでメタバースを言い表すとしたら「多人数で参加して自由に行動できる仮想空間」となります。
現実的な経済を動かせる、VRを必要とする、といった要素が定義に含まれるかどうかは、人によって異なるでしょう。
メタバース=仮想空間
メタバースとはバーチャル世界に作られた仮想空間を指します。
meta(メタ)とuniverse(ユニバース)が掛け合わせられた造語です。
1992年に発売された小説Snow Crashで仮想世界のことを「Metaverse」と呼んでおり、この小説が語源だと言われています。
今回の記事で話題に挙げるセカンドライフについてのインスピレーションを与えたのがSnow Crashである、というエピソードは広く知られています。
ちなみに、和訳されたスノウ・クラッシュは1998年に日本で出版され、2022年1月には復刊予定です。
多人数が参加して行動できる空間
メタバースの定義として、以下の要素が挙げられます。
- ネットワークで繋がっていて多人数が参加できる
- 用意したアバターで自由に行動できる
オフラインで1人しか参加できなかったり、行動がシナリオなどで制限されたりする空間は、メタバースとは呼べません。
この2点以外にも挙げられる要素はありますが、人によって定義が異なる場合もあるので割愛します。
近年ではVRサービスやアプリの意味合いも強い
多人数で空間を共有できればメタバースと呼べますが、「メタバース=VRの世界」というイメージも強まっています。
なぜなら、VRを利用してメタバースを見たときの没入感が、まさに仮想現実の中にいる体験を与えているからです。
また、メタバースと銘打ってVRのサービスやアプリを提供している企業も存在するため、VRでなければメタバースでないと考える人が少なからずいます。
もしかすると抵抗を感じるかもしれませんが、本記事ではVR空間でなくてもメタバースと呼べるという前提で読み進めてください。
ゲームの世界もメタバースといえる
メタバースが指す仮想空間は、ゲームの世界も含んでいます。
ゲームのために作られた世界でも、自分の分身となるアバターを操作して自由に行動できる点では仮想現実といえるでしょう。
例を挙げると、ブロックでの建築や敵との戦闘を楽しめるマインクラフトや、動物たちが住む村で生活できるどうぶつの森シリーズなどがあります。
物語や目的が用意されているMMOゲームは、メタバースに含まれないことが多いようです。
セカンドライフでは何ができる?
(出典:Second Life)
セカンドライフ(Second Life)はリンデン・ラボ(Linden Lab)社が提供しているメタバースです。
日本でも一時期話題になったので、利用したことがないけど知っているという人も多いでしょう。
2003年から提供されていますが、昨今のメタバースで利用できる機能の多くが、当時のセカンドライフにも実装されていました。
具体的にどんなことができるのか、主要な3つを紹介します。
他プレイヤーとのコミュニケーション
セカンドライフでは自分の分身となるアバターを使って自由に行動し、他のプレイヤーが操作するアバターとコミュニケーションを取ることができます。
テキストチャットやボイスチャットで対話できますし、ジェスチャーやポーズといった動きでの感情表現も可能です。
1対1の対話だけでなく、多人数で集まってライブやパーティなどのイベントも開催できます。
セカンドライフ内でお金を稼ぐためにも、コミュニケーションは重要だといえるでしょう。
アイテムや土地の売買
自作したアイテムやセカンドライフ内の土地を売買することで、現金(日本円)を稼げます。
服や髪型などの3Dモデルを作成してアップロードすれば、他プレイヤーへ向けて販売できます。
土地については、ゲーム内の不動産屋などを利用して取引が可能です。
これらの取引には、現金を払って購入できるゲーム内通貨のリンデンドルが必要になります。
アイテムや土地を売ってリンデンドルを集め、日本円に換金することで稼げる点が、セカンドライフの大きな特徴の1つです。
スクリプトを用いたギミック作成
自分の土地には物や建物を配置でき、それらのオブジェクトにスクリプトを仕込んで動かすことも可能です。
スクリプトを使うことで、オブジェクトの上に文字を出したり、自動でものを動かしたりできます。
高度なスクリプトが組めるようになれば、アバターを動かして楽しめるアトラクションゲームや、オブジェクト操作で答えを入力できるパズルも作れます。
なおスクリプトの記述には、LSL(リンデン スクリプト ランゲージ)というセカンドライフ特有の言語を用います。
セカンドライフの歴史と現在
日本とセカンドライフの歴史をざっくりまとめると、次のようになります。
- 2003年・・・セカンドライフ正式サービス開始
- 2007年・・・日本でセカンドライフがブームに
- 2008年・・・日本企業がセカンドライフから撤退
- 2021年・・・サービス継続中
ブームになったことを知らない人もいれば、サービスが続いていることに驚く人もいるかと思います。
それぞれの時代で何が起きたか、詳細を見ていきましょう。
2003年:サービス開始
2003年6月、β版公開を経てセカンドライフのサービスが正式に開始しました。
遠くの土地へ移動するテレポートにリンデンドルがかかったり、リンデンドルを換金できなかったりと、サービス開始当初は不便な部分が多かったようです。
そして、アップデートを重ねていく中で、セカンドライフ内の取引がビジネスとして利用できるようになります。
2006年には、セカンドライフでの収益が100万米ドルを超えたプレイヤーも登場しました。
(参考:History of Second Life - Second Life Wiki)
2007年:日本でブームに
2007年に入ってからセカンドライフに関するニュースが各メディアで取り上げられるようになり、日本で一大ブームが巻き起こりました。
セカンドライフで稼いだ億万長者が出てきたこともあって、セカンドライフは稼げると話題になります。
そのため個人だけでなく企業も参入していき、セカンドライフ内でサービスを提供するまでに発展していきました。
参入した企業にはBOOKOFFや電通、ミクシィなどが挙げられます。
2008年:企業の撤退
順調に見えた日本のブームでしたが、2007年中に日本人のユーザーはどんどん離れていき、2008年には企業も撤退する流れになりました。
2010年にはセカンドライフを利用する企業はほぼいなくなり、企業向けに土地レンタルをおこなっていたマグスル社も事業を縮小するに至ります。
ただし、世界的にはユーザー数は増える傾向にあり、2010年時点でもセカンドライフを利用している日本ユーザーは2~3万人いたようです。
(参考:セカンドライフ「企業利用ゼロ」 土地のレンタル事業大幅縮小: J-CAST ニュース)
2021年:サービス終了せず継続中
日本企業の撤退によって失敗したイメージが強いセカンドライフですが、2021年12月時点でもサービスを継続しています。
セカンドライフを起動できるブラウザの1つであるFirestormによると、いまもオンライン人数は4万人を超えているようです。
しかも機能が追加されたことでグラフィック面が向上し、最近のメタバースに引けをとらない表現力が備わっています。
追加された機能を挙げると、他の3Dソフトで作成したオブジェクトデータをそのままインポートできるメッシュ機能や、表情や指先などに骨格を拡張できるBENTOなどです。
見栄えのいいアバターが作成できるようになったので、プロモーションビデオの撮影にセカンドライフが利用されることもあります。
なぜセカンドライフのブームは去ったのか?
ブームが去った理由を一言でいうなら、セカンドライフで稼ぐのは難しいと皆が気付いたからです。
メタバースで稼げるという話題性で始めた人が多いはずなので、稼ぐ目的で始めたユーザーが大多数だったでしょう。
そういったユーザーが、稼げないと知って離れていくのは当然の流れだといえます。
さて、稼ぐのが難しいといえる要因として挙げられる、次の3点について見ていきましょう。
- 利用するための敷居が高く、ログインする人が少ない
- 単価が安いため多売が必要
- 個人で稼ぎやすい環境が整っていない
敷居が高かった
そもそもセカンドライフを始める際に大きな壁があったため、ブームに乗ろうとして諦めた人が多数いました。
大きな壁とは、PCスペックおよび言語の壁です。
当時は3Dを動かすために必要なPCパーツが非常に高価で、気軽に参戦できませんでした。
いざ始めたとしても英語圏のプレイヤーが圧倒的に多く、馴染めなかったユーザーも。
稼ぎにくかった
物価が非常に安かったため、まとまったお金を稼ぐには相当な労力が必要でした。
セカンドライフにはアイテムを10リンデンドル(当時の相場で約5円)で販売しているお店も存在するほど物価が安く、アイテム販売の利益は見込めませんでした。
土地の売買も昨今のメタバースほどの値段にはならず、512平方メートルで購入費1600円、月額の維持費が750円といった相場。
しかも敷居の高さから日本の利用者はそこまで増えなかったため、日本人を対象にしたビジネスの難しさは容易に想像できます。
「ネットで稼ぐ」が定着していなかった
サービス当時は個人がネットで稼ぐことが一般的ではなく、セカンドライフでのビジネスに抵抗を感じる人が多かったのが離脱の原因として考えられます。
いまでこそクラウドソーシングやYouTuberで稼ぐ人が増えていますが、当時はクラウドソーシングサイトも、YouTubeの収益化プログラムも提供されていなかった時代です。
「セカンドライフで稼ぐ!」と息巻いても周りからは理解を得られず、苦い思いをした人もいるでしょう。
こういった環境で意思を貫き通し、稼ぐためにセカンドライフを続けるのは困難だといえます。
現在メタバースブームが来ている背景
セカンドライフからの撤退によってメタバースのブームは過ぎ去りましたが、2021年頃からメタバースブームが再び訪れています。
ブームが再燃したのは、以下に挙げる3つの背景があるからだと考えられます。
- 3Dが利用しやすい環境になり、メタバースが身近になった
- VRが普及したことでメタバースへの没入度が増した
- NFTによってメタバースの価値が高まった
セカンドライフの時代より大きな盛り上がりを見せている現在のメタバースブームは、これらの背景によって支えられているのです。
3Dが利用しやすくなっている
現在はPCのスペックが底上げされ比較的安価にメタバースを体験できるため、利用するためのハードルが格段に低くなっています。
また、メタバースにはスマートフォンからでもアクセスできるようになり、誰でも使える身近なものになりつつあります。
活動するために必要なアバターも、3Dモデルや制作ツールの無料配布によって簡単に入手できます。
スマホとネット環境があれば、無料でメタバースに入ることも可能です。
このようにスペックの問題は解消されてきているので、あとはメタバースへ行きたいかどうかの問題であるといえるでしょう。
VRの普及で没入度が高まる
目の前にゴーグルやスマホを付けて臨場感のある映像が楽しめるVR技術は、メタバースへの没入度を高めることに成功しました。
セカンドライフではアバターを見ながら操作する形になっていたので「アバター=操作するキャラクター」のイメージが拭いきれません。
しかしVRを利用すると目の前で現象が起きるため「アバター=自分自身」と認識できます。
こうしたVR体験が、メタバースを現実といえるレベルまで昇華させたといっても過言ではないでしょう。
NFTによって仮想空間の価値が上がる
2021年から急激に広まっているNFTが、メタバースの価値向上を実現しています。
通常デジタルデータは複製が簡単にできるため、制作元や希少性の証明ができず価値がなかなか付きませんでした。
しかし、NFTの付与によってデータの価値を証明することが可能になり、メタバースに利用できるデータにも高値が付いています。
たとえば、メタバースのNFTゲームThe Sandboxで取引されているアバターや土地には、50万円以上の価値が付くようになりました。
メタバースを利用したサービスの例
ここで、メタバースに関連するサービスを5つ紹介します。
- The Sandbox(ザ サンドボックス)
- MetaMart(メタマート)
- VRChat(ブイアールチャット)
- Cluster(クラスター)
- Horizon Worlds(ホライズンワールド)
今回紹介する例には、ブーム前から利用されているアプリから、正式リリースを控えている新しいサービスまで揃っています。
もちろん、ここで紹介している以外にも、人気のあるサービスは多数存在します。
本記事を読んでメタバースに興味が湧いたら、検索して探してみてもよいでしょう。
The Sandbox
(出典:The Sandbox Game)
多くの人に注目されているメタバースNFTゲームの1つが、The Sandboxです。
3Dドットで作られたボクセルアートが特徴のゲームで、他のプレイヤーが作った土地を冒険したり観光したりできます。
アバターや敵キャラ、アイテムを制作するツールも無料で配布しており、条件を満たせば作った作品をマーケットプレイスで販売することも可能です。
2021年12月時点ではα版をリリースした段階ですが、企業の援助や参入がたびたび話題になっています。
MetaMart
(出典:MetaMart)
2021年12月2日にβ版がリリースされた、メタバースと3Dアイテムに特化したNFTマーケットプレイスです。
NFTを購入すれば3Dアイテムをダウンロードでき、メタバースで利用することもできます。
将来的には購入したアイテムを鑑賞できるARビューや、他ユーザーと交流できる独自のメタバースなどの機能拡張を検討しているようです。
事前受付により登録者数はすでに10万人を超えていますが、機能が追加されれば今後も利用者が増えるでしょう。
VRChat
(出典:VRChat)
2017年に早期アクセス版がリリースされたVRコミュニケーションアプリです。
できることはセカンドライフに近いですが、大きな違いはVRヘッドセットに対応している点。
ボイスチャットやジェスチャー操作が加わることで、相手のアバターを目の前にして会話している感覚が味わえます。
なお、VRヘッドセットを持っていなくても、デスクトップモードでVRChatの世界に入ることができます。
Cluster
2017年5月に正式版の提供を開始したバーチャルSNSサービスです。
VRやスマホにも対応しており、好みのスタイルでコミュニケーションがとれます。
また、有料チケットを販売して500人まで入場できるメタバース上のイベントが開催可能です。
自分のアバターを用意した3Dモデルに設定することもでき、VRM形式が対応しています。
Horizon Workrooms
Meta社(Facebook社から改名)が提供しているビジネス会議用のVRサービスです。
VRで利用できるメタバースで、面と向かって人と話したりホワイトボードに書き込んだりできます。
VRヘッドセットを持っていない人もビデオチャットで参加可能です。
2021年8月にオープンβ版が公開されており、Oculus Quest 2を接続すればダウンロードできます。
今後もブームが続くと思われる根拠
セカンドライフが流行したときとは違い、今後もメタバースブームは続くと予想されます。
その根拠は、以下の3点です。
- NFTの登場により、メタバースの枠を越えた価値が付いた
- ネット上で働く時代になり、メタバースで稼ぐことへの理解が得やすくなった
- 会社の打ち合わせや業務にメタバースが活用されるようになった
セカンドライフはブームになってから半年と待たずに離脱者が続出し、1年ほどで企業の離脱が進みました。
それに対して、いまのメタバースブームは参入企業が増えているため、さらなる成長が期待できるでしょう。
NFTが価値を生み出している
NFTが付与されたメタバースのアイテムは、別のメタバースやメタバース外でも利用できる資産となります。
たとえば、万が一セカンドライフのサービスが終了すれば、セカンドライフ内で購入したアイテムは消失してしまいます。
いっぽうNFTが付与されていれば、利用できるメタバースがなくなったとしても、個人のウォレット内にあるNFTは消えません。
残ったNFTは、貴重なデータとしてNFTマーケットプレイスで取引できますし、新しく作られるメタバースで再利用できる可能性もあります。
メタバースはNFTによって提供する範囲を広げているため、1つのサービスが終了すれば終わる一過性のブームではなくなっているのです。
個人がネットで稼ぐ時代になりつつある
ユーチューバーとして情報配信を始めたり、ブログで収入を得たりする人が増え、ネットで稼ぐのが当たり前の世界になりつつあります。
ネットで稼ぐ方法には、クラウドソーシングサイトで依頼を受けたり、TwitterなどのSNSを活用して仕事を受注したりする方法もあります。
さらには、集客から販売までのセールス活動もすべてネット上で完結させ、億単位で稼ぐ人も。
ネットでの稼ぎ方は多様化が進んでおり、メタバースで稼ぐことも方法の1つとして受け入れられやすくなっています。
会社でもメタバースが活用されている
コロナウイルスが発生したことで、一般企業や会社でもメタバースが利用されるようになりました。
リモート会議を取り入れる会社が増加し、ビジネス用のメタバースを提供する企業も現れています。
これからも密にならないコミュニケーションが重要視されていくことが予想されるので、ビジネスとメタバースの繋がりはますます強くなっていくでしょう。
まとめ:これからもメタバースは続いていく
日本では失敗したと言われているセカンドライフですが、2021年になっても機能を強化しながらサービスを提供し続けています。
サービスを継続している事実は、メタバースの需要が長年続いている証ともいえるでしょう。
また、日本で失敗とされる原因になったPCスペック等の問題は、技術の進歩によって解消されつつあります。
すべての人が自分専用のアバターを持ち、メタバースで交流する未来が近づいているのかもしれません。