Web3の領域が進展する中で、仮想通貨のトラベルルールは注目を集めるようになりました。しかしその具体的な内容や適用範囲を理解している人はまだ少ないかもしれません。
この記事では仮想通貨のトラベルルールが何であるかや目的、トラベルルールによって何が変わるのかなどを詳しく説明しています。
仮想通貨のトラベルルールについて理解し、投資をうまく管理するための知識を得られるよう、ぜひ最後までご覧ください。
- そもそもトラベルルールとは何なのか?
- トラベルルールにはどのような目的があるのか?
- トラベルルールの種類と各取引所の対応はどうなっている?
- トラベルルールで注意すべきポイントとは?
トラベルルールについて
仮想通貨のトラベルルールとは、FATF(金融活動作業部会)が定めた、仮想通貨の送金に関する規則のことを指します。これにより、暗号資産交換業者は取引をおこなう両者の情報(名前、アカウント情報、地理的な位置等)を収集、プラットフォームや機関に提供しなければならなくなりました。
トラベルルールは銀行間での送金を規制するもので、目的は適法な取引を保証し、不正行為を未然に防ぐ点にあります。仮想通貨の場合、匿名性やプライバシーを重視するユーザーが多く、その適用はさまざまな議論を引き起こしています。
トラベルルールの目的
トラベルルールは不正な資金の流れを防ぎ、経済の安全を確保するという重要な役割を果たしています。
トラベルルールの目的の一つは、マネーロンダリング対策です。不正な資金の流れを防ぎ、経済の安全性を確保しています。
さらにテロ資金供与対策のかたちで、テロ活動を防ぐ働きも担っています。また、不正利用の追跡可能性の確保としては、仮想通貨の適切な利用を促すとともに、犯罪の抑止につながる要素です。
最後に、国際基準の規制遵守(FATFの規定)が挙げられます。これにより仮想通貨のグローバルな取引が一定のルールの下で適切におこなわれるのを保証しています。
FATFと国際基準
FATF(金融活動作業部会)は、マネーロンダリングやテロ資金供与対策の国際基準を策定する重要な国際組織です。中でもトラベルルールはFATFが各国の規制当局に対して導入を求めている規則の一つです。
目的は不正利用があった際にその追跡ができるようにして、送金元と受取先の情報を明らかにすることです。トラベルルールには仮想通貨の不正な利用を抑止する効果が期待されています。
トラベルルールの導入時期
FATFは2019年にトラベルルールの適用範囲を仮想通貨に拡大しました。
これに対応するかたちで、各国もFATFの勧告に従い、トラベルルールの導入を進めています。日本では2023年6月からトラベルルールが導入されました。
日本に先駆けて他の国や地域では、2020年代初頭から段階的にトラベルルールが導入されています。
トラベルルールシステムの種類
トラベルルールシステムは2種類あります。
それぞれの特徴と取引所の対応について詳しく解説します。
TRUSTシステム
「TRUSTシステム」は、「Travel Rule Universal Solution Technology」の略称で、トラベルルール対応のために用いられる情報通知システムです。アメリカの大手仮想通貨取引所「Coinbase」などによって開発されました。
暗号化された情報を直接やり取りして、第三者による攻撃や悪用を防ぐ機能を持っています。受取側の取引所が受け取りアドレスの所有を確認・証明できる仕組みも有しています。
日本国内では、CoincheckとbitFlyerが導入していますが、海外ではCoinbaseやKrakenなどの取引所でも広く採用されているのが特徴です。
SYGNAシステム
「SYGNAシステム」は、トラベルルール対応のために用いられる情報通知システムで、台湾のブロックチェーンセキュリティ企業CoolBitXが開発しました。その中の「Sygna Bridge」というサービスは、トラベルルールに適応するために作成されたものです。
暗号資産関連事業者(VASP)向けにグローバルなコンプライアンスに関するシステムを提供しており、顧客データを共有するためのソリューションとなっています。
日本国内では、GMOコインやSBI VCトレード、DMM Bitcoin、Rakuten Walletなどが導入しています。
取引所間の対応の違い
トラベルルール対応のために用いられるシステムには、特定の制約が存在します。基本的に同じシステムを導入している取引所同士でのみ送金が可能というルールです。
具体的にはTRUSTシステムとSYGNAシステムを採用している取引所間では、送金ができない場合があります。つまり送金可能な組み合わせは「TRUST対TRUST」と「SYGNA対SYGNA」です。
それ以外の組み合わせでは送受信ができないため、取引所がどちらのトラベルルールに対応しているか、事前に確認しておきましょう。
トラベルルールによる送金制限とデメリット
トラベルルールはマネーロンダリングやテロへの資金供給を防止するために欠かせない制度ですが、デメリットもあります。
ここからはトラベルルールのデメリットについて解説します。
送金制限の詳細
トラベルルールは国内、国外への仮想通貨の送金全般を対象とし、送金する通貨の種類や金額に関係なく適用されます。送金先は通知元と同じトラベルルール対応ソリューション(TRUSTまたはSYGNA)を採用している取引所に限られます。
金融庁指定の通知対象国に送金する場合も、同じトラベルルールを採用する取引所にしか送金できません。それに対して通知対象国外の取引所には、これまで通り送金可能です。
ただし取引所や仮想通貨によっては送金できなくなる場合もあります。
送金ミスのリスク
トラベルルールのもとでは、送金先取引所が異なるシステム(TRUSTまたはSYGNA)を採用している場合、送金ができない状況が生じます。
送金先が間違っていると、仮想通貨が戻ってこない可能性があるのです。送金ミスが発生した場合、取引所間の調整が必要となり、それには時間や手間がかかります。
このようなミスを防ぐためには、送金前に送金先取引所が同じトラベルルール対応ソリューションを採用しているかの確認が重要です。また送金先の取引所やアドレスを正確に入力し、確認すれば送金ミスのリスクを軽減できます。
情報提示の要求
トラベルルールの導入により、送金時には仮想通貨取引所に対して情報の提示が求められるようになりました。具体的には、送金元の取引所から受取側の取引所に対して、一定の事項の通知が必要となっています。
これには送金依頼人と受取人に関する情報が含まれます。そのためトラベルルールにより送金先取引所が異なるシステム(TRUSTまたはSYGNA)を採用している場合、送金ができない可能性があるため、注意しましょう。
各取引所のトラベルルール対応
日本や世界の各取引所ではどのような対応がおこなわれているのでしょうか。
各取引所のトラベルルール対応について解説します。
日本の取引所とJVCEA
日本では金融庁が承認した自主規制団体のJVCEA(日本仮想通貨事業者協会)がトラベルルールの導入を推進しています。
JVCEAは日本国内の仮想通貨取引所に対してその遵守を求めています。対応として日本の主要な仮想通貨取引所は、TRUSTシステムまたはSYGNAシステムを導入しました。
主な例として、CoincheckとbitFlyerはTRUSTシステムに対応済みです。またGMOコイン、SBI VCトレード、DMM Bitcoin、Rakuten WalletなどはSYGNAシステムを採用しています。
JVCEAはトラベルルールに関する情報提供や取引所間の調整をサポートする役割も果たしています。日本の取引所はトラベルルールの遵守により、国際基準に沿ったマネーロンダリングやテロ資金供与対策を実施しているのです。
大手海外取引所の対応
トラベルルールは国際的なマネーロンダリングやテロ資金供与対策として、規制当局からの導入が各国で求められています。大手海外取引所の多く、例えばCoinbaseやKrakenなどが対応済みです。それでも特にオフショア取引所を中心に、対応していない海外取引所も存在します。
対応のためには主にTRUSTシステムとSYGNAシステムの2種類があり、前者はCoinbaseやKrakenなどが導入しています。送金については「TRUST対TRUST」と「SYGNA対SYGNA」が可能です。それ以外の組み合わせは送受信ができません。
そのため取引所がトラベルルールに対応しているかどうかは国際送金の可能性を左右します。
トラベルルールに準拠していない海外取引所
トラベルルールに準拠していない海外取引所は主にオフショア取引所を中心に存在します。これらは日本の金融庁や他国の規制当局から認可を受けていない場合があります。一部は金融庁から警告を受け、例えばBinanceは2018年と2021年に警告を受けました。
そのような取引所との送金は制限され、利用すると確定申告の難易度が上がる可能性があります。さらに国税庁は海外の税務当局に情報提供を要請できるため、海外取引所でのトレード履歴が調査されるかもしれません。
トラベルルールに準拠していない海外取引所をあえて利用するなら、そのリスクをしっかり理解しておきましょう。
まとめ
仮想通貨のトラベルルールは、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止を目的として、国際的な取り組みとして広く採用されています。
このルールはFATFにより国際基準として設定され、TRUSTやSYGNAなどのシステムを通じて取引所間での送金時に適用されています。
トラベルルールによる送金制限やデメリット、情報提示要求には注意が必要で、ユーザープライバシーへの影響も考慮に入れるべきです。
日本国内の取引所はJVCEAを通じてこのルールに対応し、大手海外取引所も同様に対応していますが、準拠していない海外取引所も存在します。
このような状況を理解した上で、ユーザー自身が適切な取引所を選択し、リスクを理解して送金をおこなう必要があります。
今後、各国の規制や取引所の対応により状況は変化するでしょう。
ユーザーはその都度適応し、安全な仮想通貨取引をおこなうことが求められます。